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令和5年7月28日放送、TBSテレビ「Nスタ」にリモートで生出演し、ビッグモーターの前社長及び全副社長の責任についてお話ししました。
放送では時間がかなり押したために予定されていた内容の3分の1もお話しできませんでしたが、放送の準備のために、同日時点までに報道された事実に基づき、ビッグモーター側がどのような責任を負うかについての弁護士丹羽の考えをまとめました。
放送内容につきましては、こちらの『ビッグモーター・兼重親子の責任は…不正請求も“詐欺罪”にはならない?弁護士解説【Nスタ解説】|TBS NEWS DIG』をご覧ください。

特に、今回の放送では時間がなくお伝え出来ませんでしたが、弁護士丹羽は、今後ビッグモーターが本当に「ガバナンス」や「コンプライアンス」(新社長挨拶より)を強化した信頼できる企業に生まれ変わっていくのかについては、会社が、前社長や前副社長に対する損害賠償請求を追求していくかに注目していくべきと考えています(理由は記事の末尾に記載してますのでよかったらご覧ください)。

ビッグモーターの多方面にわたる不正が次々に明らかとなっているため、報道機関の皆様の間でも、どのような行為により誰がどのような責任を負うかについてしっかり整理ができていないと思われるので、宜しければご参照ください。

現時点の報道に基づく事実で、ビッグモーターの法律上問題となりえる行為

1 顧客の車を故意に傷付け不正な保険金請求をしていた点
刑事責任 器物損壊罪、詐欺罪、道路運送車両法違反
民事責任 顧客及び損保会社に対する損害賠償・不当利得返還債務
行政処分 認証工場指定・検査員資格取消等 

2 損保会社に保険販売の優先権を与える見返りに、保険金の不正請求を見逃してもらっていた点
刑事責任 保険業法違反
行政処分 保険販売代理店指定の取消

3 街路樹を勝手に伐採・撤去した点(器物損壊、国土交通省・総務省)
刑事責任 器物損壊罪
民事責任 街路樹を管理する自治体に対する損害賠償

4 内部通報をもみ消して調査報告書に虚偽の内容を記載した点
行政処分 公益通報に適切に対応するための体制を整備する義務違反として、公益通報者保護法違反

5 今回の「Nスタ」で報道された自動車販売時に契約書に、顧客の承諾なく署名・押印していた点
刑事責任 有印私文書偽造罪、消費者契約法違反
民事責任 消費者契約法に基づく契約の取消

6 これらの違法な行為により経営者が自己若しくは第三者の利益を図り、会社に売上の減少等の損害を与えた場合
刑事責任 特別背任罪
民事責任 会社に対する会社法上の損害賠償責任

7 その他報道されている事実に基づく法的責任
① 労働基準法違反 
残業代未払い、違約金と給料の相殺、時間外労働の強制、休日・休暇の不付与、予告なし解雇、不当な異動命令等
② 消費者契約法違反
中古車販売・買取り時の重要事項や不利益事項の不実告知、契約締結前の違約金等の債務内容の実施等

誰がどのような責任を負うか

刑事責任

まず、器物損壊・有印私文書偽造罪の直接の行為者は、強制の程度が著しく抵抗ができない心理的状況下に陥っていない限り、これらの刑事責任を負います。
また、直接の行為者ではないものの上司や店舗責任者についても、犯行を指示していたり、容易にするような手助けをしていた場合には、共同正犯や教唆・幇助犯として処罰される可能性もあります。
そして、前社長・副社長を含む当時の取締役については、これらの犯罪事実を直接指示し、また犯罪事実を知りながら積極的に関与しているような場合に限って処罰の対象となると考えられます。

特別背任罪の成立については、取締役が上記違法行為により自らや第三者に対する利益を得ており、これらの直接指示していた事実のほか、知っていながらあえてこれを利用したというような任務違反行為があった場合にも成立可能性はあると考えます。

ただし、詐欺罪については詐欺行為の結果としての利益の帰属が問題になります。
これらの刑事責任は個人が負い、法人自体は負いませんので、詐欺の結果得た保険金が、キックバックとして行為者や店舗責任者、また、取締役らの個人に直接の利益をもたらしていたといえるような場合に成立の可能性があると弁護士丹羽は考えています。
今回の件については、捜査機関がビックモーターの関係者に対し詐欺罪の成立まで切り込めるかがポイントになろうと考えています。

民事責任

刑事責任と同様に、上記違法行為に直接関与していたものに対し民法上の民事責任が生じますし、上司や店舗責任者のみならず取締役についても、直接指示していただけなく、不当な行為を手助けしていた場合や、これを知りながら放置するなど適切な処置を講じていない場合などでも、民法709条の直接責任もしくは同715条の使用者責任、もしくは、会社法429条により責任を負うと考えられます。

責任の追及方法について・消費者団体訴訟制度

損保会社や自治体等の団体以外の個人については、個々の被害金額が小さく、また、修理代金の不正請求については損保会社からも一定の填補が得られる見込みである現状では、個人の方が個々にビックモーターに被害請求をするのは現実的ではありません。

個人の方については、消費者保護法上の適格消費者団体を通じた消費者団体訴訟(詳しくはこちら)により被害回復を図ることも考えられますので、ビックモーターの一連の行為による被害回復を図ること検討されている個人の方は、まずは電話番号188(局番なし)の「消費者ホットライン」にお電話されるか、お近くの消費生活センター(こちら)に相談されることをお勧めします。

取締役の会社に対する責任(会社法423条責任)

実は今回の取材では、前社長及び前副社長の会社に対する責任が一つの目的でしたが、放送では時間がなくそこまで話が進みませんでした。
前社長及び前副社長も、自らの利益を図るため、これらの不正行為を指示し、また、本当に知らなかったとしても、従業員らの不正を防止する措置やこれらの不正に気付くことができる社内組織体制を整えておく義務があり、これらの義務に漫然と違反していた場合、ビックモーターは前社長及び前副社長らの取締役らに対し、会社法423条に基づき会社に対する損害賠償責任を問うことは可能です。
しかし、この責任を会社側で提訴するできる者は、監査役や現代表取締役ですので、前社長らとの関係性から実際に前社長らを提訴するとは考えられません。
また、このような場合に備えて、株主が会社の代表として前社長らに責任追及する株主代表訴訟(会社法847条)が規定されているのですが、ビッグモーターの株式は、前社長及び前副社長らの会社であるビックアセット社が100%所有しているので、自らの責任追及をするために自ら株主代表訴訟を提起することは考えられません。
したがって、仮に今回の一連のケースで会社が損害を負ったとしても、会社から前社長や前副社長に対する責任を追及する手段の実効性には大いに疑問があります。

弁護士丹羽は、今後、本当にビッグモーターが新たな企業として生まれ変わっていけるのか、本当に『ガバナンスを徹底強化し、コンプライアンスを常に意識した経営』(同社HP・「ご挨拶(次期 代表取締役社長 和泉 伸二)」より)を行っているかは、ビッグモーターが前社長及び前副社長ら取締役らの任務懈怠に対して損害賠償請求を追求することができるかにかかっていると考えています。


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