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【記事の内容】
 平成28年10月26日に大変痛ましい交通事故が起こりました。
 愛知県一宮市で下校途中の則竹敬太君(9歳)が、信号のない横断歩道を歩行中に、36歳の男が「ポケモンGO」を操作しながら運転していたトラックに轢かれ、敬太君は亡くなりました。

 これに先立つ同年8月23日には、徳島市で同じく、39歳の男が「ポケモンGO」をしながら運転していた軽自動車に、信号のない横断歩道を横断中だった二人の女性が轢かれ、それぞれ死亡、重傷を負わせる事故が発生しました。
 この事故の加害者を被告人とする過失運転致死傷罪の刑事裁判において、徳島地方裁判所は、同年10月31日、被告人に禁固1年2月の実刑判決を言い渡し、この判決は確定しました。

 弁護士丹羽は、上記判決についての中日新聞社の取材に対し、危険運転致死傷罪ではなく、過失運転致死傷罪では執行猶予判決が下されることが多い中で、実刑判決を下した徳島地方裁判所の判断を評価しました。
 また、スマートフォンをはじめとした「ながら運転」の危険性に対するドライバーの意識は非常に低く、このような事故が相次ぐならば厳罰化は必須であること、それでも痛ましい交通事故が無くならないのであれば、そもそも車の運転をしながらスマートフォンを利用できなくなる技術的な措置を講じる必要性が急務であることなどを説明しました。

【ポケモンGOによる交通死亡事故】
 愛知県春日井市では、同年8月11日に、信号のない横断歩道を自転車で横断していた女性が、直前までポケモンGOをしスマートフォンを充電しようとした26歳の男が運転する自動車に轢かれ死亡するという事故も起きました。
 さらには、京都府長岡京市でも同年9月12日、ポケモンGOを操作しながらクレーン車を運転していた47歳の男が、原付バイクに追突し、原付バイクに乗っていた女性を死亡させるという事故も発生しました。

 ポケモンGOを巡っては、平成28年7月6日に米国などで先行配信された直後から、世界中でポケモンGOを操作しながら事故を起こした事例が相次いで報告され、日本でも同様の痛ましい事故が生じることが当初より大きく懸念されてきました。
 にもかかわらず、同月22日日本でも配信が開始された結果、上記のとおり取り返しのつかない凄惨な交通事故が多発してしまいました。
 警察庁によると、平成28年11月21日までに、ポケモンGOを操作中に生じた人身事故は17都道府県で26件発生したとのことです。

【運転中にスマートフォンを使用することの危険性】
 近年、ポケモンGOに限らず、スマートフォン使用によると思われる事故が多発しています。
 スマートフォンは、手先の細かな作業により、極めて小さな画面に使用者が最も関心の高くかつ多くの情報を表示できる一方で、カーナビなどと違い、運転中の使用を想定していないことから、自転車を含めた車両の運転中に使用すれば、いくら気を付けようと心掛けても、ついそちらに目を奪われて、運転中の注意が散漫になる危険性が高い機器です。
 安全を確認しながらちらっと見るだけだからと思い運転していても、気になる情報が表示されたり、細かい操作をする際には、自分でも無意識のうちにそちらを注視してしまいがちになります。
 特に、ポケモンGOについては、モンスターを捕獲したり、アイテムを取得するために車両で速く広範囲に移動することが効率が良いことから、車両運転時にゲームを行うためにスマホを使用し、モンスター捕獲時の操作や、獲得したアイテムやモンスターを確認するためなどの際に、スマホ画面を注視する危険性が特に高いものと考えられます。

 ところで、皆さんは、運転中にスマートフォンに電話がかかってきたとして、助手席に置いてあるスマホの位置を確認して、操作して誰からかかってきたか確認し、応答し始めるまでにどのくらいの時間がかかるでしょうか。
 また、ポケモンGOでモンスターを発見したことを確認し、ボールを投げ、捕獲するまではどうでしょうか。
 運転中なら3秒はかかるかもしれません。
 一方、車両は時速30キロメートルで走行していれば、たった3秒でプールの端から端の25メートルも進行します。
 そして、3秒間目を離した結果、目の前に危険が迫り急ブレーキをかけたとしても、そこから停止するまでは空走距離を含め乾燥路面で11.31メートル進みます。
 つまり、車の速度としては比較的低速度に感じる時速30キロメートルで走行していたとしても、3秒間目を離し、そこで危険を感じて急ブレーキをかけても、最初に目を離した地点から36メートルも走行するということです。
 時速60キロメートルなら、82.75メートルです。
 時速30キロメートルで運転していた場合、30メートル先の横断歩道に歩行者が渡っていないからと言って3秒間目を離したら、その間に横断歩道を渡り始めた歩行者を轢いてしまうということなのです。

 もちろんスマホから得られる情報は緊急のものの場合もあるでしょうが、多くの場合、運転中にスマホを注視し操作して得られるものは、利便性であったり、場合によっては一時的な享楽に留まるものでしょう。
 ポケモンGOを自らや家族の生死と引き換えにプレーしている人など考えられません。
 その一方で、運転中にスマホを注視して操作することは、歩行者、自転車やバイク、自己や他の車両の運転手や同乗者の命を奪い、大怪我を負わせる可能性が非常に高い、殺人・傷害と比肩すべき極めて危険性が高い行為なのです。
 つまり、運転中のスマホの使用は、一時の利便性や享楽と引き換えに、自らも含め人の生命を奪い、身体に危険を及ぼす可能性がある行為をしていることを、自転車を含めた全ての車両の運転手の皆さんが強く認識すべきです。

【運転中のスマートフォンの使用に対する罰則及びその適用の現状】
 運転中のスマートフォンの使用は当然法律で罰則が定められています。
 道路交通法上、自動車や原付の運転中にスマホなどを通話のために使用したり、画面を注視したりした場合は、刑事罰として5万円以下の罰金及び行政罰として1点の減点及び普通車であれば6000円の反則金となります(71条5項5号、120条1項9号)。
 そして、これにより交通の危険を生じさせた場合は、刑事罰として3月以下の懲役または5万円以下の罰金及び行政罰として2点の減点及び普通車であれば9000円の反則金となります(71条5項5号、119条1項9号の3)。
 また、車両を運転していて人を死傷させた場合には、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」5条により、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処せられます。

 このように、車両を運転していて過失により人を死傷させた場合には、自動車運転処罰法が適用され、7年以下の懲役に処せられる可能性があるのですが、実際の刑事裁判では、人を死亡させた場合でも、運転者に特段の重い過失や多数の交通違反の前科などがない場合には、ほとんど罰金か執行猶予が付きます。
 最近では、大型トラックを運転中に居眠り運転をして追突をし、1人を死亡させ、2人に重傷、3人に傷害を負わせた交通事故で、静岡地裁浜松支部は禁固3年の実刑判決を下したケースがありましたが(平成27年12月3日判決)、過失運転致死罪で実刑になったケースはさほど多くありません。

 交通死亡事故は、ごく当たり前の日常生活を営み、朝変わらぬ様子で出かけた老若男女を問わず全ての家族や大切な人が、運転手の不注意により、何の落ち度もなくある日突然別れも無念の想いさえも伝えられないままこの世を去ってしまい、それまで何の不安もなく幸せな生活を送っていた遺族を不幸のどん底に叩き落します。
 その一方で、運転手は、逮捕・勾留されない限り、事故直後から普通に生活を営むことができ、刑事裁判の判決が下されても、その多くは罰金を納め、もしくは、執行猶予期間を何事もせず過ぎることでまた元の生活に戻ることができるのです。
 これでは、亡くなった方や残された遺族は、その負わされた苦しみ辛さ悲しさ憎しみを晴らすことなど到底できず、無念さを抱えたまま人生を歩んでいかなければなりません。

【スマホ使用による「ながら運転」を防ぐために】
 このような悲惨な事故で悲しむ方々を無くすためにはどうしたら良いのでしょうか。
 もちろん、すべての車両の運転者が、スマートフォン操作による「ながら運転」の危険性を十分認識し、「ながら運転」を一切しない世の中になることが理想です。
 しかし、ポケモンGOの場合、日本で発表される前に散々その危険性の指摘や注意喚起がなされていながら、また、従来からスマホの使用による「ながら運転」の危険性が周知されながら、「自分は決して事故を起こさないから大丈夫」と誤解し、悲惨な事故が相次いでいる状況では、そのような世の中の実現は難しいと言わざるを得ません。
 大変残念なことですが、すべての歩行者や車両の運転者が、ながら運転をして前方の安全確認が不十分な反規範的な運転者がいることを前提として、外を歩き、運転するなどの自衛手段をとらざるを得ないでしょう。

【現行法下での対策】
 現行法の範囲内でできることは、交通死亡事故や重度後遺障害事故の場合であっても、罰金刑や執行猶予付き判決を下していた裁判所の事実上の運用を改めることです。
 特にスマホ操作による「ながら運転」は、先に説明しましたとおり長時間のわき見を誘発しがちな、交通弱者にとって極めて危険性が高い運転態様ですので、その行為の危険性や過失の重大性にかんがみて、この記事の徳島地方裁判所のように、積極的に実刑を科す運用に改め、裁判所から社会に対しメッセージを発していく役割が求められると考えます。

【スマホ使用による「ながら運転」の厳罰化とその方策】
 やはり、スマホ操作による「ながら運転」防止のために、最も効果が高いと思われるのは、法改正による厳罰化であることは間違いないでしょう。
 飲酒運転については、平成14年6月から始まった道路交通法の漸次改正や、平成13年12月の刑法改正による危険運転致死傷罪の新設(平成26年5月から「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に移管)などの厳罰化により、平成13年には2万5400件発生していた飲酒事故が、平成20年には6219件と4分の1に減少しました(平成21年版交通安全白書)。
 今では、飲酒運転をしない、周囲の者が運転手に飲酒をさせないことは、皆さんもごく当たり前になっていることでしょう。

 このような結果から、スマホ操作による「ながら運転」を防止するために早急に行わなければならないことは法改正による厳罰化です。
 具体的には、先に見たとおり、道路交通法上のスマホ等の操作による行政罰や刑事罰は軽きに失するので、これを飲酒運転並みに加重したうえで、自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪2条に、スマホ操作による「ながら運転」を新設すればいいのです。
 最近の危険運転致死被告事件をみても、京都地裁平成28年5月25日判決(懲役3年6月)、横浜地方裁判所平成28年5月24日判決(懲役11年)、山形地裁平成28年3月9日判決(懲役3年以上4年以下)、東京地方裁判所平成28年1月15日(懲役8年)と、裁判所も危険運転致死傷罪で起訴された事件は刑期も長く積極的に執行猶予を付しません。

 危険運転致死傷罪は、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処すとされ、条文上下記の運転行為により人を死傷させた場合に適用されます。
 ・飲酒や薬物の影響により正常な運転ができない場合(1号)
 ・進行を制御することが困難な高速度での運転(2号)
 ・進行を制御する技能を有しない運転(3号)
 ・進行妨害目的での割込みや著しい接近行為かつ重大な交通の危険を生じさせる速度での運転(4号)
 ・赤色信号を殊更無視しかつ重大な交通の危険を生じさせる速度での運転(5号)
 ・通行禁止道路を通行しかつ重大な交通の危険を生じさせる速度での運転(6号)

 上記条項との均衡を図るため、これにスマホ操作による「ながら運転」行為を処罰する規定を新設するならば、以下のような条項になると考えられます。

「自動車に持ち込まれた画像表示用装置に表示された画面を注視し、正常な運転ができない状態で自動車を走行させる行為」

 「注視」とは画像を見続けることをいいますが、各種の研究報告によれば2秒以上画面を見続けると運転者が危険を感じるとのことで一致しているとのことですので(「執務資料道路交通法解説」東京法令出版)、2秒以上スマホの画面を注視し、前方不注意により人を死傷させた場合に、危険運転致死傷罪を適用すれば良いのではないかと考えます。
 謙抑性や責任主義の観点から、危険運転致死傷罪を道交法と同じ基準にするのは問題があるとのことであれば、「殊更注視し」として、画面注視の程度を加重する方法も考えられます。
 そして、立証の問題になりますが、スマホ使用による「ながら運転」での危険運転致死傷罪の適用を実効化させるため、ポケモンGOの場合、「ぼうけんノート」が残っていれば、大体の使用状況はわかりますし、一般にスマホに通信・通話履歴が残っていますので、捜査機関は、スマホの使用が疑わしい場合、被疑者に任意に表示させる、任意提出を受けこれを領置するなどの他、否認している場合などには、検証令状によりスマホの通信状況を検証する、通信会社に通信・通話履歴を照会するなどのスマホ使用の有無について捜査を積極的に行うべきです。

(平成30年3月、前田先生と星先生の見解を追記しました。)
【著名な刑法学者の見解】

平成26年7月13日に多量に飲酒をした上で車を運転し、最低でも20秒以上スマートフォンの画面を注視したため歩行者4名をはね、うち3名を死亡、1名に重傷を負わせた被告人に、危険運転致死傷罪を適用し懲役22年の判決を下した札幌地裁平成27年7月9日判決の判例解説(WestLawJapan・判例コラム 臨時号・第55号)の中で、著名な刑法学者である日本大学大学院法務研究科前田雅英教授も、下記のとおり述べ、スマホながら運転を危険運転で処罰できないことに対する立法措置を求めています。
「ただ、このような、スマホに熱中した運転の危険性も、交通事故防止の観点からは、重視されるべきである。アルコールや薬物の影響が全くないのに、スマホの内容に強く影響されて、本件事案と同程度の前方不注意により事故を起こした場合、自動車運転処罰法3条の準危険運転致死傷罪には該当せず、同法5条の過失運転致死傷罪により7年以下で処断される。その量刑判断でスマホの使用も考慮されるということになるが、社会におけるスマホの影響の強さに鑑みると、立法論として、何らかの対応が必要になる可能性もあるように思われる。」

【近時の刑事法論文】

平成29年5月20日㈱成文社発行「刑事法ジャーナル第52号」では、「自動車運転死傷行為等処罰法の動向」として過失運転致死傷罪の諸問題についての特集が組まれました。
特集の冒頭、首都大学東京都市教養学部法学系星周一郎教授は、「危険運転致死傷罪の拡大の意義と課題」と題する論文中の『刑法犯の対象外としての「故意行為の評価」』との項目において、本判決を引用したうえで、ながらスマホ運転について、「(危険運転致死傷罪)が成立しないことに対して国民一般からの疑問が生ずる」類型であり、『「ながらスマホ運転」では、画面への意識が集中しがちであり、「危険な運転」であるとするのが一般的な評価でもあろう」と指摘しています。
そして、星教授は本論文の結びとして、『ながらスマホ運転による致死傷結果などが、(中略)それを「前方不注意」という過失としてのみ評価することにも、広く国民一般の理解が得られているわけでもない。そういった「中間的な類型」を適切に評価する枠組みのあり方や立証の問題、犯罪者処遇を含め、自動車運転致死傷後遺処罰法の法体系について、改めて検討が迫られる局面が早晩訪れる可能性も否定できないように思われる。』と論じています。


【厳罰化に向けた崇智さんの取り組みと社会的潮流】
 一宮市で下校途中に亡くなった則竹敬太君の父崇智さんは、自分のように辛く苦しい思いをする人を少しでも減らしたいとの一心で、事故直後から、スマホ使用による「ながら運転」防止のための活動を始めています。
 崇智さんは教員をしておられますが、生徒に「常に声を上げ意思をしっかり表示しなさい。」と指導している立場から、「ながら運転」を防止するためには、自分が声を上げていかなければならないとの使命感から行動しています。

 崇智さんは、かけがえのない大切な敬太君を極めて身勝手な理由により突然失ったのですから、本来であれば静穏な環境の下で、敬太君を十分に悼み、心を落ち着けることを本当は望んでいることでしょう。
 時間は残酷なもので、時が経てば経つほど記憶は失われますので、今は敬太君と過ごした大切な9年間をひとつ残らず思い返し、記憶に焼きつけておく大切な時間であるはずです。
 しかし、崇智さんは、敬太君の死を決して無駄にしたくない、これ以上同じ思いをする人を無くしたい、そのような思いで敬太君とともに声を上げています。

 崇智さんは、敬太君の葬儀の際弔問に訪れた中野一宮市長に思いを直訴し、平成28年11月17日には、大村愛知県知事と面会し厳罰化を訴え、これを受けた大村県知事も国への法制化に向けた要請を行うことを約束しました。
 愛知県は、罰則強化に向けた要望書を国家公安委員会や法務省に提出し、同年12月2日には大村県知事、中野市長とともに、松本国家公安委員長と面会し、松本国家委員長も、関係各署と早急に協議し厳罰化について検討すると述べました。
 自由民主党でも、同年11月15日、交通安全対策特別委員会などの合同会議で事故防止策の検討に入りました。
 交通安全対策特別委員長である、地元一宮市出身の自由民主党江崎鐵磨衆議院議員は、「スマホをしながら運転するという不届きなドライバーもいるが、こういったことに厳しく取り組まなければいけない」と深い関心を示しました。
 同年12月20日には、一宮市議会が「公道において車両を運転しながらスマートフォン等携帯電話を操作することに起因する交通事故被害者を絶対に出さないという強い決意のもと、車両運転中における「ながらスマホ」防止のための対策を強化するよう求めるため、国に対し意見書を提出する。」として、車両運転中における「ながらスマホ」防止のための対策強化を求める意見書が提出され、全会一致で可決されました。
 同日、愛知県議会でも、「スマートフォンを操作しながらの車の運転は重大な事故を引き起こす危険性が高く、対策の強化が喫緊の課題になっている」などとして、スマートフォンを操作しながらの運転に対する罰則の強化などを国に求める意見書を全会一致で可決されました。
 翌年1月に開かれる東海北陸7県の議長会議でも「ながらスマホ」についての問題提起がなされます。
 今後、崇智さんは、大村県知事とともに金田勝年法務大臣と面会し、厳罰化に向けた要請を直接行う予定です。

 同年12月11日には、「ながら運転」の防止を特に強く訴えている中日新聞社が実施したインターネットを通じた読者アンケート「中日ボイス」において、7割以上が「『 ながら運転』への罰則や取り締まりを強化すべきだ」と厳罰化に賛成したとのことです。

 崇智さんの悲痛な活動が行政・立法を動かし、社会的コンセンサスを形成し、厳罰化が実現しようとする段階にまで来ています。

【敬太君の刑事裁判に向けて】
 このような社会情勢の中、平成29年1月19日、名古屋地方裁判所一宮支部において敬太君をひき殺した加害者の刑事裁判の第1回公判が開かれます。
 本件は、トラックを運転する加害者が、38メートル手前で歩道上に敬太君を含めた児童らがいることを確認した後、ポケモンGOをするため再びスマホを操作したため、横断歩道を渡っていた敬太君の直前まで気づかず、敬太君をひき殺したという殺人ともいえる極めて重い過失により引き起こされました。
 名古屋地方裁判所一宮支部が、本件の極めて重い過失や結果の凄惨さ、厳罰化に向けた立法・行政の政治的な動きや社会的な流れ、そしてこれに応え実刑判決を下した徳島地方裁判所の英断、これらをどう受け止め、司法としてどのような判断を示すか大きな注目を集める公判になるでしょう。

 徳島の事件の判決を耳にした敬太君の友人が、敬太君の仏前でこんな話をしていたそうです。
 「人を殺して1年2か月で刑務所から出てくるなんておかしいよね。」
 弁護士である私も全く同じ気持ちです。
 敬太君の公判では、敬太君や遺族の皆様の無念の想いが少しでも晴らされるとともに、この小学生でも感じたおかしいと思う気持ちが生かされるものであって欲しいし、一刻も早くそのような矛盾が解消される社会的な措置が講じられることを、交通事故遺児である私も強く望みます。
 これ以上、交通事故で悲しい思いをする人を増やしたくない。
 本来は、法律の厳罰化ではなく、車両運転手の気持ちや心構え一つで解決することなのですから。

敬太君の各刑事裁判期日の詳しい状況及び判決については、下記をご覧ください。
第1回公判の様子
第2回公判の様子
判決の内容と評価

平成30年4月16日追記
平成30年4月14日、愛知県西尾市でまたもポケモンGOのながらスマホ運転による交通死亡事故が発生してしまいました。
現在報道で明らかになっている事情は、運転手が信号待ちでアイテムを取得し、運転中に「ぼうけんノート」で履歴を確認している際に事故を起こしたとのことです。

ここ愛知県では、ポケモンGOのながらスマホ運転による死亡事故は3件も起きてしまいました。
敬太君の刑事裁判では禁錮3年、平成29年5月11日には愛知県春日井市のポケモンGO死亡事故で禁錮2年半の実刑判決が下されたほか、スマホながら運転に対しては、同年8月10日には愛知県一宮市の名神高速道路上で5人を死傷された事故で禁錮3年の実刑判決がそれぞれ下され、平成30年3月19日には、滋賀県多賀町の名神高速道路上で5人を死傷させた事故で検察官の求刑を上回る禁錮2年8月の実刑判決を下しています。
このように、スマホながら運転に対して厳罰化でのぞむという裁判所の姿勢は明らかになっています。

これらの事故や判決の内容は繰り返し報道されています。
平成30年2月10日には、平成29年5月に地元CBCテレビで放送された敬太君の事故とスマホながら運転の危険性を訴える「スマホとクルマ」がBS-TBSで全国放送されました。
敬太君の父の崇智さんは、多忙な本業の傍ら、敬太君を亡くし同じような思いをする家族を少しでも減らしたいとの一心で、愛知県下の学生や生徒さんを中心に、ながらスマホ運転の危険性を訴える講演活動に現在でも懸命に取り組んでいます。

今となっては、スマホながら運転は、飲酒運転と同じように悪質性が高い極めて危険な運転態様であることは周知の事実です。
にもかかわらず、再びこのような悲惨な事故が起きてしまったことに、司法の一翼を担う私としても、深い悲しみと無力感を感じながらも、やはり一刻も早く道路交通法を改正して、一層の厳罰化と取り締まりの強化を実現することが、このような悲惨なながらスマホ運転による被害者をなくすために必須な事であると痛感しています。

平成30年1月14日付産経新聞報道にあったとおり、まずは、道路交通法を改正して、

自動車や原付の運転中にスマホなどを通話のために使用したり、画面を注視したりした場合は、
「5万円以下の罰金」から、「6月以下の懲役または10万円以下の罰金」に、

これにより交通の危険を生じさせた場合は、「3月以下の懲役または5万円以下の罰金」から、「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」

それぞれ厳罰化されるべきです。


厳罰化の一歩が実現しました!(令和元年9月13日追記)


令和元年6月5日公布の改正道路交通法(同年12月1日施行)により、上記のとおりながらスマホ運転が厳罰化されました。
本ホームページ「令和元年の道路交通法改正で、ながらスマホ運転は撲滅できるでしょうか」でも述べましたとおり、厳罰化の内容は決して十分とはいえませんが、ながらスマホ運転を無くし交通事故被害に遭う人を少しでも減らすための大きな一歩となったことと存じます。

3年間もの間、敬太君とともに、ながらスマホ運転の危険性を訴え続けた則竹崇智さんの悲痛な想いがようやく実を結び始めたことを嬉しく感じ、また、私たちすべての人が交通事故被害に遭う可能性が減少したことについて、崇智さんと敬太君に心から感謝いたします。


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