後遺障害認定
人工骨頭・人工関節置換により後遺障害が認定される理由について
人工骨頭・人工関節の挿入置換がなされた場合の後遺障害等級
交通事故により上腕骨骨頭壊死や広範囲な腱板損傷が生じた場合の肩関節、大腿骨骨頭壊死での股関節、大腿骨顆部骨壊死や広範囲な半月板損傷での膝関節、上腕骨遠位端粉砕骨折での肘関節などに人工関節や人工骨頭が挿入・置換されることがあります。
最近では、人工関節の素材や手術方法の発展・改良により、手・足関節のみならず指関節の人工関節置換術や、関節の全部置換ではなくより身体への侵襲性が低い部分置換術(片側置換術/単顆置換術)の手術例も多くみられるようになってきました。
人工骨頭・人工関節置換術は、実施後痛みや可動域制限から解放され生活レベルの大きな向上がみられる大変有益な治療法であり、また、3Dプリンターによるカスタムメイドの人口骨の製作が可能となり、合併症の危険が減少することで、今後より発展していく術法であると思われます。
そして、交通事故により、肩・肘・手(首)、股・膝・足(首)関節に人工骨頭や人工関節置換術が実施された場合、それだけで「1関節の機能に著しい障害を残すもの」として、10級(上肢10号、下肢11号)が認定され、人工関節に置換した患側の可動域が健側の2分の1に制限された場合、「1関節の用を廃したもの」として、8級(上肢6号、下肢7号)が認定されます。
人工関節置換のみで10級が認定される理由
場合によっては、事故前から関節に多少の痛みや可動域制限があった場合、人工関節に置換することにより事故前よりも痛みが軽減され可動域が広がったということもあるかもしれません。
事故前の症状の程度によっては加重障害や既往症減額の問題はありますが、それでも、原則として人工関節に置換しただけで10級の後遺障害が認定されます。
では、人工関節や人工骨頭挿入・置換された場合、10級の後遺障害が認定される理由はどこにあるのでしょうか。
1 禁忌肢位や関節への過度の負荷が制限されること
人工関節置換後、脱臼やインプラントの破損等の恐れがあるため、例えば正座やしゃがむ姿勢をしないようにするなど、関節を最大可動域まで曲げたり、ねじったりするような姿勢が制限されたり、ジャンプ・全速力での走行・激しいスポーツが禁止されたり、重量物の運搬が制限されることがあります。
つまり、人工関節に置換したからといって、事故前と全く同じような労働や日常生活が送れるわけではないので、この点が後遺障害が認められている大きな理由です(関節の保持・支持機能の制限)。
2 将来の関節機能低下の可能性
置換当時は痛みや可動域制限が生じていなくても、将来的にインプラントの摩耗やゆるみにより痛みや可動域制限が生じる可能性があることも、後遺障害が認められる理由として挙げられます。
この点は、平成16年に労災での後遺障害等級が見直された際の報告書(平成16年2月「整形外科の障害認定に関する専門検討会」報告書・111頁以下)でも理由として挙げられていますし、労災必携17版373頁でも「症状固定後においても人工関節及び人工骨頭の耐久性やルースニング(機械的又は感染)により症状が発現する恐れがあります」と明記されています。
示談交渉や訴訟で、後遺障害該当性や逸失利益が否定された場合の対応
人工関節に置換した際、痛みや可動域制限が伴っていない場合、示談交渉や訴訟の場面で、相手方から後遺障害に該当しない、もしくは、逸失利益が生じていないなどの主張がなされることがあります。
その場合、上記の人工関節置換による10級が認定される理由にかんがみ、例えば、禁忌姿勢に当たりしゃがむ作業ができない、長時間素早く歩けない、肩を捻って重い書類が持てない、重量物が持てないなどの人工関節置換に伴う労働への支障を丁寧に証明し、また、将来の疼痛や可動域制限の発症もしくは悪化の可能性に関する医師の意見書や医学論文(上記のH16.2報告書でもいいと思います)などを提出し、逸失利益が認められるべきであることを主張していくことになります。
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被害者側
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