後遺障害認定
自賠責調査事務所の不可解な後遺障害等級認定
自賠責調査事務所の後遺障害等級認定判断においては、後遺障害非該当とされる理由として、しばしば症状が「軽減」されていることが挙げられています。
調査事務所は、特に異議申立時に被害者が通院していた病院に対して医療照会を行い、「症状の推移について」(以下「推移表」といいます。)や「神経学的所見の推移について」と題する書面の記載を求めます。
その際、医師に対し、推移表の「初診時から終診時までの推移」の表中、(症状が)「消失」、「軽減」、「不変」、「増悪」の4つの項目から選択して回答をさせるのですが、ここで「軽減」とされていることが、後遺障害非該当の理由にされるのです。
また、通院中に毎月病院から相手方保険会社に送られる経過診断書に「症状は軽減」と記載されている場合も同じように非該当の理由にされてしまいます。
しかし、事故により症状が生じ後遺障害が残存した場合、推移表の4項目では「軽減」しか回答のしようがありません。
すなわち、「消失」であれば、症状は治癒し後遺障害は残存しなかったことになります。
「不変」であれば、事故当初から治療効果がなかったことになり、症状固定時までの治療の必要性や相当性が否定されかねません。また、事故後の治療で軽減傾向を示さないのであれば、事故前より何らかの原因で症状が生じていたと言われかねません。
「増悪」であれば、事故以外の何らかの理由が介入し、後遺障害が残存したことになります。
一般に、事故後後遺障害が残存した場合の症状は、受傷直後が最も重篤であり、その後治療を経てある程度の改善傾向を示すものの、一定の期間を経てそれ以上の改善効果をみられる症状固定という流れを示します。
そのため、初診時から終診時までの推移は、上記4項目でいえば、まさに「軽減」するはずなのです。
この点については、損保料率機構自賠責調査事務所の認定結果に不服がある場合に、自賠責紛争処理機構(指定紛争処理機関一般社団法人自賠責保険・共済紛争処理機構)に対し、紛争処理申請を行いますが、その調停(紛争処理)結果の通知においても、定型的に、
「ところで、外傷に伴う症状は、身体が損傷を受けた受傷直後が最も重篤で、その後、治療の効果により軽減の経過をたどることが一般的であるが、」と明確に述べられています。
したがいまして、「軽減」の記載をもって、後遺障害該当性を否定する調査事務所の認定理由は全くもって不可解としかいいようがありません。
調査事務所の後遺障害認定実務では、上記4項目でいえば「不変」の記載であれば等級認定の可能性が高まりますが、通常の症状経過はやはり「軽減」しかありえませんし、何より医師の先生方の立場としても、自己の治療の効果を否定する「不変」の記載はしにくいものと思われます。
これを改善するためには、推移表の「軽減」の記載を後遺障害非該当の理由とする調査事務所の運用を直ちに止めるか、推移表中の回答項目の「軽減」を「軽減後残存」に改めるかいずれかにすべきあると考えます。
自賠責調査事務所の後遺障害認定実務は、具体的な認定手法が公開されておらず、示される認定結果の理由付けも定型的で極めて抽象的ですので、不明瞭と言わざるを得ません。
上記のような不可解な理由付けでは、自賠責保険の目的である被害者の保護を図ることはできず、強制保険である自賠責保険制度に対する国民の信頼は得られないように思います。
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