保険会社
ドライブレコーダー映像・音声データの改ざんについて
弁護士丹羽は令和6年11月、日本のドライブレコーダー研究の第一人者である東京農工大学工学部機械システム工学科名誉教授である永井正夫先生を会長とし、日本のドライブレコーダー普及・活用を推進することを目的とした一般社団法人ドライブレコーダー協議会の個人会員としての入会を承認されました。
そして、令和6年11月13日に東京農工大学で開催された同協議会主催「第16回ドライブレコーダーシンポジウム」のパネルディスカッションにパネラーとして参加し、その際、傍論ではありますが、愛知県警がパトカー搭載ドライブレコーダーの音声データを改ざんしたのではないかと疑われた名古屋地裁令和4年10月5日判決(判決全文はこちら)を紹介し、今後ドライブレコーダーデータの改ざんが問題になる事例増えてくるので、データ改ざんに強いドラレコの開発が必須であることを訴えました。
参考 名古屋地裁令和4年10月5日判決の概要
赤信号進入のパトカーと交差点で出会頭で衝突した原告が、愛知県に対し国家賠償請求を行った事案(愛知県はパトカーの物損を求める反訴を提起)で、過失割合の判断に関して、愛知県は、パトカーはサイレンを鳴らしていたと主張し、運転警察官がサイレンはなっていたと供述した内容の実況見分調書やパトカー搭載ドライブレコーダーの映像を証拠として提出し、併せて警ら中は音声録音機能は使用しないので音声は記録されていないとした捜査報告書を提出しました。
裁判所は、自らデータを解析し、音声データ部分のバイナリデータが極めて整っており、論理的に音声が入っていない可能性があるが、緊急配備を開始し捜査上の資料を保全し始めなければならないのに録音をしなかったのは疑問が残るとして、愛知県に対し、音声解析を試みること、音声データを消去した可能性がないかを再検討すること、ドライブレコーダーの型番や県警の運用規定の提出を求めたところ、愛知県は、サイレンが鳴っていなかったことを認めたうえで反訴を取り下げました。
この判例の事案では、裁判官が愛知県(警察)側が提出したドライブレコーダーの音声データを自ら解析した結果、音声データ部分のバイナリデータが極めて整っていたことから、事後的に音声が記録されていないようデータを改ざんしたのではないかが疑われます。そして、弁護士丹羽にとっては、愛知県側が裁判官の求釈明に応えることなく、サイレンが鳴っていなかったことを自認したうえで請求を取り下げたことは、これ以上の追及を避け真実が明らかになることを避けたためとも考えられます。
裁判所が、愛知県側がサイレンが鳴っていなかったことを自認し訴えを取り下げたにもかかわらず、上記の愛知県側の一連の訴訟活動を、慰謝料額の判断という枠組みで詳らかに明らかにし、決して逃がすことなく事実を公にした点で、弁護士丹羽は裁判所の高い良識を感じ、とても素晴らしい判決だと評価しています。
ドライブレコーダー映像の改ざん事件
令和6年12月20日の各社報道によると、大阪市内で追突事故を起こした24歳会社役員が、ドライブレコーダーの映像に記録されていた信号色を改ざんし保険金をだまし取ろうとしたとする事件が起こりました。
おそらく市販の動画編集ソフトなどで映像上の信号色を変えたという単純な改ざんだったと思いますが、保険会社は改ざんを見抜けなかったとのことです。
刑事での過失の軽重は起訴不起訴の判断や収監されるか執行猶予が付くかのまさに被告人の人生を大きく左右する問題ですし、民事でも過失割合は場合によっては数千万円もの金額を左右する大きな問題です。
そして、近時、高性能の映像・画像編集ソフトが誰でも容易に入手できる環境が整ってきていますので、今後も同様のドライブレコーダーのデータ改ざん事案が増えてくる可能性は非常に高いと考えています。
改ざんが容易ではないドライブレコーダーの開発の必要性
弁護士丹羽は、以前当ブログで正しいドライブレコーダーの使い方についてお知らせし(こちら)、耐衝撃・耐火・耐水性の高いドライブレコーダーや、優しく安心なドライブレコーダーの開発の必要性を訴えました。
ドライブレコーダーの普及は広く進み、いざ事が起こった場合に発揮する証拠価値の高さは今更指摘するまでもありません。
しかし、デジタルデータの改ざんは容易ですし、デジタルデータの保全や解析技術である「デジタルフォレンジック」は世界的に進んでいます。
ドライブレコーダーの社会的重要性が高まり、実際にデータを改ざんし違法な保険金請求をした事案が発生した現状では、データを容易に改ざんできない、改ざんしたとしても容易に判明しうるようなドライブレコーダーの開発が急務であることを改めて感じました。
同時に我々法曹者も、ドラレコ映像を見たまま鵜呑みにすることなく、常に改ざんされていないかという視点を頭においておく必要があることを痛感しました。
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