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現状の死亡慰謝料の基準

現在の賠償実務上、交通事故により死亡した場合の死亡慰謝料について、遺族らの生活維持への配慮や扶養権の喪失という面から、被害者を①一家の支柱、②母親・配偶者(赤い本)/一家の支柱に準じる場合、③その他、と分けてその額が算定されることは良く知られています。

そして、③の「その他」とは、子ども、独身者や扶養義務のない高齢者があたるとされており、慰謝料額の基準は赤い本・青本ともに2000万円~2500万円(近親者固有慰謝料を含む)とされています。
なお、慰謝料額は被害者の年齢や家庭内の地位だけでなく、事故態様、事故に至った経緯や事故後の状況、被害者や遺族の事故当時の生活状況や事故後の状況、被害感情や謝罪・反省の有無など一切の事情が考慮されます。


子ども、若年独身者の死亡慰謝料は基準の上限で算定します


まず、留意しなければならないのは、子どもや若年独身者が交通事故により死亡した場合の慰謝料は、上記のとおり基準が2000万円~2500万円とされているので、その範囲で定められるわけではありません。
単純に年齢だけの問題で考えた場合、子どもや若年者の場合は高齢者に比べ上限に近い金額が認定されることになります。

この点については、平成14年に開催された東京三弁護士会交通事故処理委員会創立40周年記念講演において、当時の東京地裁民事27部の河邉義典部総括判事が「私どもの実務感覚からしますと、人生を享受することなく命を奪われた子供さんと、他方、人生をほぼ全うして余命も少ない高齢のお年寄りとを、慰謝料の額において同列に扱うことには、どうしても抵抗があるというのが率直なところです」と述べたうえで、「今後も、子供さんとお年寄りとで、死亡慰謝料に差を設ける運用をすることになると予想されます」と述べています。
また、新版・注解交通事故賠償基準332頁においても、「一般論としては『年齢が小さければ上限、高齢であれば下限に近くなる』という傾向にあることもまた、否定できないように思われる。」とされています。

平成28年赤い本下巻「裁判例における死亡・後遺症慰謝料の認定水準」においても、「若年被害者の事案においては、2200万円(注:当時の上限は2200万円とされていました)を上回る認定例が極めて多数に上っている」(100頁)とされています。

以上のとおり、子供や若年独身者の死亡慰謝料は「その他」にあたるといえども、年齢に応じてその上限値に近い額を基準として判断すべきであり、「若年者は『その他』にあたり、死亡慰謝料額は基準の範囲内である2000万円」とするのは誤りです。


赤い本・青本の「その他」の基準は妥当でしょうか


以上のとおり、子供や若年者の死亡慰謝料については、赤い本や青本「その他」の上限値である2500万円を基準にして考えていくことになりますが、それでも、弁護士丹羽の実務感覚としては、近時の裁判所による子供や独身若年者の死亡慰謝料の認定額は2500万円を超え、基準上限額よりも高額なイメージを持っています。
そこで、そのイメージが正しいのか、自保ジャーナルや交通事故民事裁判例集で公刊されている、令和に入ってからの子供や20代までの若年独身者の死亡慰謝料の裁判例17例を一覧表にまとめました(一覧表はこちら)。
結果は以下のとおりです。


令和元年以降の裁判例(17例)の子供・若年独身者の死亡慰謝料認定額


最低額2570万円、最高額3300万円 平均額2780万円
2600万円以下  1件(2570万円)
2600万円    6件
2600万円超え~2800万円以下 4件
2800万円超え         5件

これら令和に入ってからの子供・若年独身者の死亡慰謝料に関する裁判例を概観すると、一般的な認定額は2600万円となり、飲酒・スマホ・赤無視・居眠りなどの過失の重大性や、救護義務違反・加害者の虚偽供述や暴言などの救護事故後の悪質性、遺族に精神障害を生じた場合などの慰謝料を増額する特段の事由がある場合には200万円から400万円程度、最大で700万円程度増額されているということがわかりました。
そして、このことは被害者側の過失が大きい場合であっても何ら変わりはないということもわかりました。
ちなみに、被害者側の過失については既に過失割合で考慮されており、死亡慰謝料で二重に減額すべきではないというのが弁護士丹羽の持論です。

少なくとも、(被害者側の過失が大きい場合も含め)これら17例の裁判例では、「その他」の上限額にあたる2500万円しか認めなかった事案は皆無です。

以上より、子供や若年独身者の死亡慰謝料は2600万円を基準として考えるべきであり、赤い本や青本の基準については早急に改定すべきではないかと弁護士丹羽は考えています。


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