被害者側交通事故専門弁護士によるブログ
事故後持病の糖尿病が悪化し死亡した場合、事故と死亡との因果関係を認めた判例について
糖尿病が交通事故裁判に与える影響
現代病である糖尿病については、交通事故の場面においても様々な点に影響し、これまで当事務所のHPでもいくつかの争点について取り上げて参りました。
例えば、刑事責任の場面では、インシュリンの作用による低血糖のために意識を喪失し事故を起こしたケースで、過失の有無が争われます(詳しくはこちらをご覧ください)
また、民事賠償の場面では、事故後、糖尿病が悪化し死亡等の重大な結果が生じた場合に事故と重大な結果との間の相当因果関係が争われることがしばしば場見られます(詳しくはこちらをご覧ください。)
さらに民事賠償の場面では、「治療が長引いたり、事故による症状があったかしたのは持病の糖尿病も要因である」などとして既往症減額がなされたり、「重度の糖尿病にり患していたため、平均余命までの賠償は認められない」として、逸失利益や将来介護費が減額されたりすることもあります。
糖尿病患者が事故後死亡した場合、事故と相当因果関係を認めた判例
今回、交通事故被害に遭った場合に頻繁に問題とされる、「死亡に至る程度の交通事故ではなかったが、持病による糖尿病等があったために死亡した」ケースで、交通事故と死亡との相当因果関係を認めた近時の裁判例をいくつかご紹介いたします。
松山地裁今治支部平成26年3月25日判決(確定・自保ジャ1923号)
糖尿病、高血圧症、高脂血症、肺結核等の既往症がある83歳男性が普通乗用車に衝突され、右脛骨内果骨折等で入院中に脳梗塞・肺炎等を原因として事故後約3か月後に死亡した事案で、以下のとおり認定しました(既往症減額30%)。
『(入院治療を余儀なくされ、)食欲不振による栄養状態の悪化や廃用症候群状態となり、長期臥床に伴う活動性低下により循環不全に陥り、また、誤嚥性肺炎をはじめとした感染症を起こしやすい状態となり肺炎を併発し、更には脳梗塞を発症し、全身状態が悪化して遂に死亡するに至ったというのであるから、これら一連の経過に照らすと、高齢のAが本件事故により長期臥床による入院生活を余儀なくされたことと持病とが相俟って、死亡するに至ったと認めるのが相当である』
水戸地裁下妻支部平成20年2月29日判決(確定・自保ジャ1743号)
糖尿病性網膜症の既往症を有する55歳女性が普通乗用車に衝突され、鎖骨・肋骨骨折等で入院中に、腎不全等で全身状態が悪化しくも膜下出血を発症し、事故後691日経過後に死亡した事案で、以下のとおり認定しました(既往症減額0%)。
『本件事故により重度の外傷を受け、その治療中に創傷感染があり、その結果、敗血症、播種性血管内凝固症候群、腎障害等を併発し、全身状態の悪化に伴い、くも膜下出血を発症して死亡したものであるから、本件事故と花子の死亡との間には因果関係があるというべきである。』
神戸地裁平成10年1月30日判決(交民集31.1.169)
糖尿病、慢性膵炎、うつ病等の既往症を有する71歳男性が普通乗用車に衝突を受け、頭部外傷Ⅱ型・膝打撲等の傷害を負い、入院中に肺炎による呼吸不全となり事故から8か月後に死亡した事案で、以下のとおり認定しました(既往症減額6割)。
『身体的状況は最終入院の約2か月前ころから悪化し始め、1か月前からは急速に悪化し、1週前から肺炎を発症したと推定できる。ここで、本件においては、受傷直後は胸部外傷もなく、受傷後約5か月は長期の臥床状態を来すことはなく、外来受診も可能であったことから、肺炎罹患の危険性を予見することは不可能であるとも考えられる。
しかし、まず、両下肢痛の進行による歩行障害は、活動性の低下を通じて肺炎発症の要因となることが認められる。
さらに、うつ状態の悪化が活動性低下の進行と前後している事実は、うつ状態が活動性を低下させ、また、一方では交通外傷に起因する腰痛、両下肢痛による活動性低下がうつ状態を悪化させるという悪循環を招いたことを推認させる。
また、うつ病治療のための向精神薬は、身体精神的機能の低下をもたらし、これによって、活動性の低下を助長させ、口腔内分泌物、胃内容物の誤嚥の危険性を高める。
さらに、身体的機能の低下は、栄養障害、免疫力の低下を招き、このような悪循環はますます肺炎罹患の危険性を増加させる。
したがって、これらの事実を合わせ考えれば、太郎において、交通外傷受傷が精神的要素の悪化を介し、さらに、身体的機能の障害を介して、活動性低下をもたらすことによって、肺炎発症をもたらしたもので、肺炎を直接の死因として死亡したとしても、これらは、通常人おいて予見することが可能な事態といというべきであるから、太郎の肺炎発症と本件事故との間、更には太郎の死亡と本件事故との間には、いずれも相当因果関係があるというべきである。』
大阪地裁平成9年11月20日判決(交民集30.6.1662)
糖尿病、脳血管障害、てんかん当診断を受けたことがあったが、事故前特段の症状がなかった80歳女性が普通乗用車に衝突され、第3腰椎圧迫骨折等傷害を負い、入院中に尿路感染症にり患し敗血症のため、事故後8か月経過後に死亡した事案で、以下のとおり認定しました(既往症減額20%)。
『本件事故に遭うまでは日常生活には格別の支障はない状態であったのに、本件事故によってほぼ寝たきりの状態となり、これを契機に体力が低下し、既往症と相侯って健康状態が悪化して、ついには死亡するに至ったものと認められるから、花子の死亡と本件事故との間には相当因果関係を認めることができるというべきである。』
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