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相手方があり被害者自身にも過失がある場合の人身傷害保険の取り扱いについては、今から10年以上前の平成22年の保険法制定により25条で保険代位について差額説を採用することが明文化され、これに続く最高裁第一小法廷平成24年2月20日判決が訴訟基準差額説を採用することを明らかにし、これを受け、各保険約款の改正による読替え規定の採用により、一応の解決を見たところです。

ただ、自賠一括対応をした人傷社が回収した自賠責保険金を被害者の損害賠償額から控除できるかについての判断を行った最高裁第一小法廷令和4年3月24日判決が出されたことを受け(結論は従前の多数説のとおり否定)、改めて人身傷害保険について問い合わせを受けることが増えましたので、今一度、人身傷害保険と相手方加害者に対する損害賠償請求権(対人賠償保険)との関係を簡単におさらいしておきます。

なお、各保険会社によって人傷保険の約款の規定が違い、また、示談の場合で人傷先行した際の人傷社の相手方への求償額については対応が異なることがあるので、相手方保険会社との示談の前に、必ず人傷社に人傷支払額及び相手方保険会社への求償予定額を確認することが重要です。
また、加害者側と示談した後に人傷支払い訴訟を提起しても読替え規定は適用されませんので注意が必要です(東京高裁平成26年8月6日判決)。


簡単な結論として


ごく簡単な結論としましては以下のとおりです。

・自己の過失相当分を人傷保険で填補するためには訴訟が必要
ただし、人傷先行で人傷基準額が訴訟上の自己の過失相当額に満たない場合、訴訟後人傷の追加払いを受けられるか確認が必要(通常は人傷支払時に協定書を作成し追加請求はされませんので、自己の過失割合が大きい場合に人傷を先行させると、自己過失分全額の賠償を受けられない恐れがありますので、注意が必要です)。

・示談の場合、相手方の賠償額もしくは人傷基準額のいずれか高い方の支払いしか受けられない。
賠償額よりも人傷基準額が上回っている場合、人傷先行して相手方請求時に人傷取得額全額を既払金とすると、差額分の支払いを受けられなくなるので注意が必要

・保険約款の適用については、人傷先行の場合は保険代位の範囲、賠償先行の場合は支払基準の範囲の問題

1 相手方加害者に対して訴訟をした場合

人傷基準額(もしくは人傷限度額)が被害者の訴訟上認められる過失相当額を超えていれば、以下を理由として人傷先行でも賠償先行でも過失割合にかかわらず、賠償額全額の支払いを受けられます。

人傷先行の場合は、訴訟基準差額説・約款中の代位規定+読替え規定
賠償先行の場合は、約款中の人傷支払規定+読替え規定
 
ただし、人傷基準額もしくは限度額だけでは訴訟上認められる被害者の過失相当額に満たない場合注意が必要です。この場合、訴訟後人傷社から訴訟後訴訟基準差額説を前提とした人傷の追加払いを受けられるか確認しておく必要があります(通常は人傷支払時に協定書を作成するので追加払いは受けられません)。
そのため、読替え規定があることを前提に、訴訟を提起しその後人傷を請求することになります。

被害者請求を先行している場合

訴訟提起前に自賠責保険に対し被害者請求を先行させており、支払われた自賠責保険金額が過失相殺後の賠償額を上回っている場合は、人身傷害保険からその分は差し引かれます。

自賠責先行取得・賠償先行で、賠償総額8,000万円、過失割合被害者60%対加害者40%、自賠責取得額4,000万円の場合ですと、
本来賠償額(過失相殺後の賠償額)は3,200万円になり、自賠責保険が800万円上回っていますので、
人傷保険から支払われる額は、過失減額分4,800万円から800万円を差し引いた4,000万円になります。
この場合でも、①自賠責保険4,000万円、②訴訟(請求棄却)0円、③人傷保険4,000万円(訴訟基準)で賠償額全額の回収は可能です。


2 訴訟をせず示談で解決した場合


人傷先行でも賠償先行でも相手方の過失相当額もしくは人傷基準額までの支払いしか受けられません。


人傷先行の場合


人傷先行の場合、約款中の代位規定「被保険者または保険金請求者が取得した債権の額から、保険金が支払われていない損害の額(=人傷基準額)を差し引いた額」


例1:人傷基準額が支払い総額になる場合 


賠償総額8000万円 過失割合被害者40%対加害者60%
人傷基準額6000万円 人傷支払額(一部支払)4000万円(①)

被保険者が取得した債権額 4800万円
保険金が支払われていない損害額 2000万円
人傷社代位額 4800万円-2000万円=2800万円
相手方支払額 4800万円-2800万円=2000万円(②)
被害者受領額 ①+②=6000万円(人傷基準額)

*この場合、人傷支払額を全額既払金として相手方に請求すると、支払総額は単純に4800万円(人傷4000万円)になってしまうので注意が必要です。


例2:相手方賠償額が支払い総額になる場合 


過失割合被害者20%対80% その他は例1と同じ
 
被保険者が取得した債権額 6400万円
保険金が支払われていない損害額 2000万円
人傷社代位額 6400万円-2000万円=4400万円(支払った4000万円の限度で代位)
相手方支払額 6400万円-4000万円=2400万円(②)
被害者受領額 ①+②=6400万円(相手方賠償額)


賠償先行の場合


賠償先行の場合、約款中の人傷支払規定「既に支払われた保険金合計額が保険金請求者権者の自己負担額(=人傷基準額-人傷限度額)を超過するときは、人傷基準額からその超過額を差し引いて支払う」*これと異なる約款の規定もございます。


例1 相手方賠償額が支払い総額になる場合


賠償総額8000万円 過失割合被害者40%対加害者60%
人傷基準額4000万円 人傷限度額3000万円
 
相手方支払額(既に支払われた金額) 4800万円(①)
自己負担額 1000万円
超過額   3800万円
人傷支払額 3000万円-3800万円=0円(②)
被害者受領額 ①+②=4800万円(相手方賠償額)


例2 人傷基準額が支払い総額になる場合(人傷差額払い) 


賠償総額8000万円 過失割合被害者70%対加害者30%
人傷基準額4000万円 人傷限度額3000万円

相手方支払額(既に支払われた金額) 2400万円(①)
自己負担額  1000万円
超過額    1400万円
人傷支払額  3000万円-1400万円=1600万円(②)
被害者受領額 ①+②=4000万円(人傷基準額)


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