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自賠責保険での後遺障害認定の方法について、事前認定(自賠法15条)と被害者請求(同16条)の2つの方法があることは、最近では良く知られており、弁護士丹羽は従前より弁護士向けのゼミや勉強会、講演等で、事前の手間はかかるが被害者にとって有利になるので、被害者請求で申請すべきことを訴え続けて参りました。

その折、本日ご相談に来ていただいた方から、弁護士に依頼したにもかかわらず、事前認定で進められているため、時間がかかっているうえ、今更画像や検査の提出依頼が来て困惑しているとのご相談をいただきました。

当事務所では設立当初から(というより弁護士丹羽が弁護士として登録して以来)、全件被害者請求で申請していますので、これまで意識したことはなかったのですが、今回の相談者様の指摘を受け、事前認定には『余計に時間がかかるうえにどのように手続が進んでいるかよくわからない』というデメリットがあることを今更ながら実感しましたので、詳しくご説明いたします。

なお、この方は弁護士に依頼した以上、当然被害者請求で進められると思っていたとのことです。
しかし、わずか10年ほど前でも被害者請求の割合は1割程度で、現在でも残念ながらまだまだ被害者請求で進めてくれる弁護士はそこまで多くないというのが実情ですので、被害者請求での後遺障害申請を希望される場合には、依頼する際に弁護士に被害者請求をしてくれるか確認する必要があると考えています。


被害者請求と事前認定のメリットとデメリットは


まず、弁護士丹羽が従前よりお伝えしてきましたそれぞれのメリットとデメリットを今一度整理すると以下のようになります。

被害者請求

【メリット】
・事前にすべての書類をチェックして提出できる
・有用な書類を吟味して提出できる
・等級認定が下りた場合、自賠責保険が支払われる

【デメリット】
・申請前に書類や検査結果等その他必要書類をすべて揃えなければならないので手間と時間がかかる

事前認定

【メリット】
・後遺障害診断書を相手方保険会社に送るだけでいいので簡単

【デメリット】
・事前に書類をチェックできない
・有利不利な書類を問わず、何が提出されたかわからない
・等級が下りても自賠責保険は支払われない

事前認定/被害者請求どちらで後遺障害申請すべきか

被害者請求のメリット、事前認定のデメリットはいずれも非常に重要で、事前認定ですと、酷い場合ですと後遺障害診断書が病院から直接相手方保険会社に送られることがあり、被害者は後遺障害診断書に何が記載されているか知らないまま手続が進んでしまうということがあります。
自賠責保険での後遺障害認定は、後遺障害診断書の記載がすべてですので、等級認定を阻害する有害的な記載があった場合は修正をお願いし、記載漏れがある場合は追記をお願いしないと、とれたはずの後遺障害等級が認められないという最悪の結果に陥ります。

また、後遺障害が認定された後に損害を算定し、示談交渉や訴訟に進むことになりますが、示談や訴訟で解決に至るまで相当な期間がかかることがあり、その前に「損害賠償の一部前払い」として、まとまった自賠責保険金を取得しておくことは被害者にとって大きな経済的メリットがあることになります。


後遺障害等級の認定を受けやすいのは


なお、被害者にとって、被害者請求と事前認定のどちらが等級の認定を受けやすいかという点は大きな関心事ですが、弁護士丹羽は、書類の事前チェックと吟味(が適正になされていれば)という点で結果的には被害者請求の方が受けやすいのは間違いないと考えています。

しかし、被害者請求でも、相手方保険会社から調査事務所に対し後遺障害等級認定に対する意見書は提出されますので、弁護士丹羽は、提出書類が同じという条件であれば、あまり変わらないのではという印象を持っています。


その他の事前認定のデメリットは


今回、新たに、事前認定のデメリットとして『時間がかかるうえ、進捗状況をチェックできない』という点が挙げられることを詳しくご説明します。

確かに、後遺障害診断書を相手方保険会社に送るだけでいいので、事前認定は被害者にとって手続的には一見時間がかからす簡便そうです。

しかし、そもそも後遺障害診断書の送付を受けた相手方保険会社が、すぐに申請書類を整えて自賠責保険に送るとは限りませんので、ここで余計に時間がかかる可能性があり、また、いつ自賠責保険に書類送り込んだかを知ることができません。

また申請した後、自賠責保険では最低限の書類のチェックを行い、その後自賠責調査事務所に書類が送られ、損害調査が行われますが、この時点で、
・同意書の記載
・画像及び検査結果の追完
・後遺障害診断書の追記
・可動域の再測定
・新たな検査の実施や診断書の作成
等様々な指示がきます。

その場合、被害者請求であれば直接調査事務所から代理人弁護士に指示がありますので、すぐに弁護士自ら代理して資料を取り付けたり、依頼者様にお願いしたり出来ますが、事前認定の場合、いったん相手方保険会社を経由して、相手方保険会社自ら書類を取得するか、さらに代理人弁護士を介して依頼者様に伝えられることになります。
特に、病院からの資料の取付けは、代理して行う場合、多くの確認書類が必要になりますので、そのやりとりでさらに時間がかかります。

事前認定の場合のやりとり

被害者様⇔代理人弁護士⇔相手方保険会社⇔(自賠責保険会社)⇔自賠責調査事務所

要するに、事前認定の場合、自賠責や調査事務所からのやりとりに相手方保険会社を経由することになり、その分余計に時間がかかります。
また、そもそもの問題として、事前認定は被害者のための手続ではなく、相手方保険会社が支払う保険金を見積もるための相手方保険会社のための手続ですので、被害者が事前認定を急いでもらいたくても、相手方保険会社はこれに応じる義務がないのです。

他方、被害者請求の場合、通常ですと定期的に調査事務所から調査状況の通知がきて、現在どのような状況か確認することができますので安心できますし、代理人弁護士に依頼すれば調査事務所に連絡して調査状況を確認してくれるはずです。

以上の点から、事前認定では、結果的にはむしろ余計に時間と手間がかかる場合があり、かつ、調査状況を容易に知ることができないという大きなデメリットがあることになります。


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