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接骨/整骨院の施術が認められる一般的な要件

交通事故賠償において、接骨院や整骨院での柔道整復の施術費用については大きく争われます。
その純形式的な理由としては、施術が医行為ではなく「医業類似行為」(柔道整復師法17条)とされている点が挙げられますが、実質的な理由としては、施術は限られた範囲でしか行えないこと、診療録の記載が義務付けられていないこと、XpやMRI等の検査ができないこと、施術者の技術や施術方法がまちまちであり、施術費を算定するための客観的で合理的な目安がないことがいわれています(東京地裁平成14年2月22日判決)。

ただ、交通事故賠償実務上、接骨院の施術についても、整形外科でのリハビリの代替手段等としてその有用性は認められており、認められる要件として、「症状により有効かつ相当な場合、ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向にある」(赤い本令和5年版上巻p4)、「医師の指示により受けたものであれば認められる。医師の指示は積極的なものでなくても、施術を受けることによる改善の可能性が否定できないことからとりあえず施術を受けることを承認するという消極的なものも含まれる。このような医師の指示・承認がなくても、改善効果があれば賠償を認める例もある。」(青本28訂版p11)とされています。

つまり、接骨院での施術費用は、症状の改善に有効であって、かつ相当な範囲で認められることになり、医師の指示や承認は、必須の要件ではなく、施術の有効性や相当性があることを強く推認させる事情となります(吉岡透裁判官講演録・赤い本平成30年版下巻p29)。
なお、自賠責保険では、端的に「必要かつ妥当な実費」と規定し、医師の介入は要件とされていません(自賠責支払基準)。

なお、柔道整復師法上、脱臼・骨折に対する施術は応急手当の場合を除き、医師の同意が必須ですので注意が必要です(同法17条)。

以上が現在の賠償実務上、施術費用が認められる要件となりますが、中部交通共済がこの要件をはるかに上回るハードルを主張し、施術費用の支払いを強行に拒むという事例が発生しましたので、以下、加害者任意共済が中部交通共済の場合、交通事故被害者が不足の負担や損害を負わないよう、注意喚起を行います。
なお、本件の中部交通共済の担当者の所属は補償部補償1課ですが、担当者によれば中部交通共済全体の考え方とのことでしたので、部署を限定せず記載します。

中部交通共済は、医師の許可及び指導・管理下での施術であることを求めてきます。

本件では、被害者が医師から施術に対する「同意書」をもらっていましたが、中部交通共済が病院に確認したところ、病院の窓口担当者から「許可はしてない。同意書は患者がもってきたから記載した」旨の言質を取ったとのことで、医師は接骨院での施術は許可していないとして施術費の支払いを拒否しました。
そのうえで、この担当者限りではなく、中部交通共済「全体」の考え方として、施術が認められるためには「医師の積極的な許可により、医師の指導・管理の下施術が行われることが必要である」と主張しました。

しかし、上記のとおり、一般的な交通事故賠償実務上、施術費用が認められるためには、医師の指示・承認があればその有効性や相当性を推認する事情となるものの、必須ではありません。
その医師の介入も「指示・承認」の程度で足りるとされており、「許可」等強いものまで求められていません。
ましてや、近時の賠償実務上では「医師の指導・管理の下」という要件は挙げられていません。

つまり、中部交通共済は、一般的な交通事故賠償上施術が認められる要件を遥かに超えたハードルを要求しています。
そもそも、中部交通共済は、医師の指導・管理とはどういった内容を想定しているのでしょうか。
都度、医師の受診の際に施術の内容やどのような改善効果があったことを都度報告し、今後どういった施術が必要かの指示を仰げということでしょうか。
医師は施術内容やその効果を正確に把握しているわけではないですし、毎回そのような指導・管理を求められるのでは医師の負担は著しく増大しますので、現実的ではありません。
このような要件を突き付けられた交通事故被害者は、接骨院での施術を諦めざるを得ないか、いったん自費で通院し、裁判を起こして裁判所の判断を仰ぐという手間と時間と費用をかけなければならない立場に陥れられます。

中部交通共済が施術費を認める要件をどのように考えるかは勝手ですが、交通事故賠償実務の混乱を避けるため、交通事故被害者だけでなく、交通事故賠償に携わるすべての関係者は中部交通共済がこのような立場であることを良く認識しておく必要があります。

中部交通共済は、施術の有効性の判断に、具体的な治療終了時期の見込みを要求してきます。

さらに、中部交通共済は、施術の有効性を認めるためには、「現段階で治療終了の見込みが立っていることが必要」と主張しました。

そもそも施術の有効性とは「施術を行った結果として具体的な症状の緩和がみられること」(片岡武裁判官・赤い本平成15年版講演録)とされており、治療終了時期の見込みとは全く関係がありません。
交通事故賠償実務では、治った場合は「治癒」まで、症状が残存した場合は改善効果が失われた「症状固定」まで、それぞれ治療が認められますが、これは施術期間の相当性の問題で、施術の有効性の判断とは直接には関わりません。

当たり前のことですが、被害者の属性や受傷機転によりいつまで治療や施術が必要かはまちまちですので、施術を受ける段階でいつまで施術が必要かを事前に判断することは、施術の効果がなくなる直近に至るまで誰にもできないはずです。
現時点で施術の効果があったとしても、どの時点で施術の効果が失われるか、すなわち治癒もしくは症状固定となるかはわかりません。

にもかかわらず、中部交通共済は「施術の有効性を認めるためには、現段階でいつころ施術が終了するかがわからないと判断できない」と強弁しました。
本件の被害者は、現時点で事故から4か月が経過した段階であり、まだ治療も施術もしている最中で、いつころ治癒するか症状固定するか分からない状況ですので、施術終了見込みついて明らかにすることは出来ません。

弁護士丹羽は、施術の改善効果があるかという点と、いつまで改善効果がみられるかという点は違うことを粘り強く説明しましたが、結局担当者の理解は得られませんでした。

以上のとおり、中部交通共済から施術費の支払いを受けるためには、医師から許可を得たうえで、都度医師の指導と管理を受けつつ、他方で当所から治療終了の見込みを明らかにするなど、非常に高く実現不可能ともいえるハードルをクリアしなければなりません。

本件は、乗用車を運転中トラックから追突を受けたという事案で、自賠責に被害者請求をすれば特に問題なく施術費は認められる事案であると考えています。
にもかかわらず、頑ななまでに施術費の支払いを拒否する中部交通共済の強硬な姿勢に、弁護士丹羽は呆れや憤りを超えてむしろ執念さえ感じました。
大多数の保険/共済会社と異なり、相手方が中部交通共済の場合の接骨院への通院については、被害者が無用な負担とリスクを負う可能性があることを注意喚起いたします。


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