被害者側交通事故専門弁護士によるブログ
交通事故被害に遭わないために~過失割合から考える交通安全
ここ愛知県では、平成30年10月20日にも2件の交通死亡事故が発生し、交通事故によりお亡くなりになった方が昨年を上回るペースで生じており、依然として交通死亡事故の発生件数は全国ワースト1位を占めています。
交通事故被害者救済弁護士として数多くの交通事故被害事件に取り組んできた経験から申しますと、大多数の交通事故は、加害者の交通ルール違反が原因ですが、一方で被害者の方々もほんの少しの注意を払えば、交通事故被害に遭うことを避けられたと思われるケースが散見されます。
これまで学校教育・運転免許取得や更新の際などで、散々自動車運転手に対し、交通ルールを守るための教育や啓蒙がなされてきたにもかかわらず、一向に自動車運転手の不注意を原因とする交通事故が減らない現状では、大変残念な悲しいことですが、被害者側(交通弱者側)が交通事故に遭わないための自衛手段を講じるしかありません。
そこで、当事務所の理念でもある、交通事故被害で辛く悲しい思いをする人を少しでも減らしたいとの思いで、歩行者・自転車という被害者(交通事故弱者)ごとに、非常に良くある典型的な事故態様にしたがい、それぞれ被害を避けるため注意すべき点を説明します。
これと併せ、被害者の方々が自らの命や身体を守るための心構えとして、被害者の方に認められる過失割合についても解説します。
損得勘定で考えても、交通ルールを守らないことで得られたほんのわずかな時間や些細な手間などの利益と、交通事故に遭うことによって失った生命・身体・自由・時間に加え、過失減額される賠償金(と払わなければならない加害者の損害)を比較すれば、自ずと交通ルールを守ったほうが絶対にお得であることが良くわかっていただけると思います。
これからお話しする注意点を歩行者や自転車という交通弱者の方の頭の片隅に置いていただき、一人でも多くの方が交通事故被害に遭わないことを心より願っております。
なお、以下の画像は、すべてGoogle社「GoogleMap」より引用させていただいており、画像上の車両や人物は交通事故とは全く無関係です。
歩行者の被害事故
1 横断歩道歩行中の事故
歩行者が横断歩道を歩行中に事故に遭うケースが非常に多くなっています。
非常に残念なことですが、交通事故被害に遭わないためには青色信号だからといって、横断歩道上だからといって安心することなど到底できません。
公道上には、スマホのながら運転や飲酒運転、ボーっとしている者、敢えて交通違反をする者など絶対に信用してはいけないドライバーが一定数紛れ込んでいます。
例えば、歩行者が青色信号に従って交差点の横断歩道上を歩行していても、左右の交差道路から赤色信号に変わったにも関らず、行けると思っているのか交差点に突っ込んでくる車両が後を絶ちません。
そこで、特に歩行者信号が赤から青に変わった瞬間は、すぐに歩き出すのではなく一呼吸おいて、特に右側から突っ込んでくる車両がないかを確認することがとても大切です。
また、下記の画像のように同じ青色信号の同一・対向車線から右左折して横断歩道に進行してくる車両にも注意が必要です。
対向車線から右折してくる車両については目に入りますが、同一方向から左折してくる車両の多くは後方から進行してくることが多いので、気づかないまま跳ねられてしまうことがあります。
横断歩道を歩行する際は、できれば同一方向後方から左折してくる車両の動静にも注意をすべきです。
横断歩道の歩行者の過失割合は?
当然のことながら、青色信号にしたがい横断歩道上を歩いている歩行者には過失割合は認められません。
ただ、例えば交差する道路が赤信号に変わったからといって(交差車両赤信号無視)、「もう自動車は来ないだろう」と思って、歩行者用信号がまだ赤なのに横断を開始した場合、歩行者にも20%の過失割合が認められます。
ですので、必ず歩行者用信号が青に変わってから渡りだすよう習慣付けてください。
また、信号がない横断歩道はどうでしょうか。
基本的には歩行者の過失割合は0%ですが、夜間や幹線道路などの広い道路を横断する際には、歩行者にも5%程度の過失割合が認められ、車両が近づいてきているのに急に飛び出したり、特段の事情がなく横断歩道上で立ち止まったり、戻ったりするような場合には歩行者の過失が5から20%程度認められてしまうこともあります。
この場合、過失割合が認められるというのは、歩行者の損害が5~20%減額されるだけでなく、自動車の凹みや傷などの修理費の5~20%を歩行者が支払わなければなりません。
自分が跳ねられたにもかかわらずです。
横断歩道であっても信号のない場合は、歩行者に過失が認められる範囲が広がりますので、より注意して横断する必要があります。
2 横断歩道外を横断中の歩行者の事故
横断歩道外を横断中に歩行者が事故に遭うケースが非常に多いことは大変分かりやすいと思います。
ここは誤解が多いところですが、そもそも歩行者が道路を横断することは道路交通法上許されています。
ただし、付近に横断歩道が設けられている道路では横断歩道を渡らければならず(道路交通法12条1項)、横断が禁止されている道路は横断してはいけません(同13条2項)。
なお、道交法12条1項の「横断道路の付近」とは、当該道路の状況や交通量などによっても異なりますが、通常の道路で30m(執務資料道路交通法解説16-2訂版)、もしくは20~30m(別冊判例タイムズ38)、片側2車線以上で交通量が多く車両が高速で走行している道路などでは40~50m(別冊判例タイムズ38)とされています。
横断歩道外の歩行者の過失割合は?
横断が許されている道路であっても、信号規制のない横断歩道外を横断して事故に遭った歩行者の過失割合は原則として20%です。
そして、日没後日の出前の夜間であった場合には5%、片側2車線以上の「幹線道路」であった場合には10%が加算されます。
すなわち、夜間に片側2車線以上ある道路を横断して事故に遭った場合、横断が許されていたとしても、原則として35%もの過失割合が認められてしまうのです。
過失割合が35%ということは具体的にどういうことかというと、このような事故で100万円もの治療費がかかった場合35万円は自分で負担しなければいけませんし、慰謝料が1000万円もらえるところが、350万円も減らされてしまうということです。
一方で、自動車の修理費用が50万円としたら、17万5000円を支払わなければいけません。
このことを説明すると、被害者の方々は「自分は被害者なのに35%も過失があるの!」と一様に驚かれます。
横断が許されている道路であっても、日中であれば20%の過失が認められますし、特に夜間などでは交通量が少ないからといってつい道路を横断してしまうことがありますが、原則として25%の過失が認められてしまう危険な横断方法であることを意識して、横断歩道以外で道路を横断する際には、「万が一、事故に遭ったらもらえるお金が大きく減ってしまう。」と思いながら、必要以上にしっかりと左右の安全を確認して横断してください。
横断歩道が付近にあった場合には?
横断歩道近くの道路を横断した場合と、それ以外の道路を横断した場合、どちらが過失が重いと思われますか?
横断歩道近くの道路を横断した時の方が10%も過失が重くなります。
上記のとおり、通常の道路で20~30mの付近に横断歩道がある場合、横断歩道を横断しなければならない義務がありますので、横断歩道が付近にあるにもかかわらず横断歩道を渡らずに事故に遭った歩行者の過失割合は原則として30%となります。
そして、同様に夜間(+5%)や幹線道路(+10%)修正がなされますので、夜間幹線道路で付近に横断歩道があった場合の歩行者の過失割合は45%になってしまいます。
ここまでくると、どちらが「加害者」なのかわからなくなってしまいます。
おそらく多くの歩行者の方が、道路を横断する際に付近に横断歩道があるか意識していないことと思います。
しかし、いざ事故が起こってみて現場を確認した際に付近に横断歩道があったとしたら、通常よりも10%も過失割合が加算されてしまうのです。
道路を横断しようとする歩行者の方々は、このことを思い出していただき、近くに横断歩道がないか
必ず確認して、横断歩道があるなら絶対に横断歩道を渡るようにしてください。
自転車の被害事故
自転車運転者を被害者とする交通事故については、自転車側もある程度速度が出ていることが多いこと、転倒した際に頭部への受傷が生じる恐れがあることなどにより、死亡や重傷事故につながる可能性が高い事故です。
そして、以下の二つの自転車を被害者とする事故態様は非常に多く見られる反面、自転車運転者もわずかに注意を払えば容易に事故を避けることができる態様ですので、詳しく説明します。
1 信号のない丁字路交差点の左方からの優先道路直進
上の交差点のように、中央分離帯で区分されている道路を優先直進路とし、劣後道路を突き当り路とする信号のない丁字路交差点では、劣後道路から優先道路に進行しようとする自動車と、優先直進路と逆走する方向に走行する自転車(上の画像では奥から手前に走行)との交通事故が多発しています。
その理由は極めて明快で、劣後道路から左折して優先道路に進行しようとする自動車運転手は、右方のみに気を取られ左方の安全を十分に確認しないからです。
通常、優先道路は通行量が多く、劣後道路の自動車運転者は優先道路にうまく合流できるかが最大の関心ごとになります。
そのため、右方の優先道路の車両の流れのみに気を取られ、車両の切れ目が生じた隙を狙って一気に丁字路交差点に進入し左折しようとします。
一方で、自転車運転手は自動車が停止しているので、当然左方からくる自分の自転車にも気づいていると誤信し、安心してその前を通過しようとします。
その瞬間交通事故が起きるのです。
この態様の場合、自転車運転手が優先道路に跳ね飛ばされ、優先道路走行車両に二重轢過される危険もありますし、自動車運転手は一気に加速しますので、自転車に加わる衝撃も大きくなり、被害が増大する極めて危険な事故態様です。
なお、自動車が道路外の駐車場等から道路に出ようとする場合も同じことがいえます。
このように劣後道路自動車から見て左側から自動車の前方を通過し、優先道路を直進しようとする自転車運転手の皆様は、自動車運転手は右側ばかり見ており、自分がいる左側は全く見ていないと考えていただいた方がいいと思います。
そして、自らの安全を最大に考えるならば、自己が優先であり徐行や一時停止義務はないものの、自動車の前で一旦停止し、自動車運転手の目線を見て自分を認識しているか確認し、わからなければ自動車が通り過ぎるのを待つか、自動車の後方を通るようにしないと事故は防げません。
自転車運転者の過失割合は?
まず、このような事故態様については、原則として自転車側にも10%の過失割合が認められてしまいます。
そもそも、自転車が車道や路側帯を走行する場合は左側通行が原則ですので(自転車走行が許された歩道上であれば右側通行も許されます。)、上記態様の自転車の走行は逆走になりますし(道路交通法17条の2第1項、18条1項)、場合によっては、「(自転車の)右側通行・左方から進入」として、自転車の過失割合が5%程度加重される可能性があります。
すなわち、一方的に劣後自動車が悪いと思われるこのような事故態様でも、自転車側に15%もの過失が認められてしまう場合があるのです。
このような事故態様で、重度の後遺障害が生じ損害額が5000万円にものぼったにもかかわらず、15%もの過失減額が認められ、750万円も減額されてしまったら悔やみきれません。
自転車運転手の方々には、絶対に気を付けていただきたい事故態様なのです。
2 自転車の一時停止義務違反
交通事故被害者の方が、最も驚かれることの一つが、自転車を運転し信号規制のない交差点で出合い頭で自動車と衝突した際に、自転車側に一時停止規制がある場合の自転車の過失割合です。
これは、特に児童や学生さんを被害者とする事故で非常に多く見られる事故態様ですが、なんと自転車側の原則的な過失割合は40%にものぼるのです。
また、自転車側に一時停止がなくても、相互に見通しが悪い交差点での自動車と自転車の出合頭事故は多く発生しており、同幅員の交差点の場合では自転車の過失割合は20%になります。
そして、上記過失割合を出発点として、夜間であれば自転車側に5%、左側通行義務が認められているにもかかわらず右側通行をし自動車の左側から進入した場合(右側通行・左方進入)、さらに自転車に5%の過失が加重されます。
すなわち、夜間に自転車で道路の右側を走り、一時停止規制を無視して右から来た自動車に衝突した場合、自転車の過失割合は50%になるのです。
一時停止無視がなくても30%です。
この時、自転車運転手が重傷を負い治療費が300万円かかっても半分の150万円は自腹になるどころか、一方で自動車運転手も急ブレーキをかけて首を痛めて人身損害が100万円生じたとしたら、その半分の50万円、自動車の修理費用が50万円かかったとしたら、その半分の25万円を自転車運転手が支払わなければならないのです。
自分や家族をひどい目に遭わせた相手方加害者に金銭を支払わなければならないのです。
そもそも、交差点での一時停止規制は自転車にも適用され、自転車で一時停止規制を無視した場合、れっきとした罰則もある道路交通法違反になります(43条・119条1項2号(3月以下の懲役又は5万円以下罰金))。
一般の方の感覚では、自転車は歩行者の延長と考えている方が多く、過失が加重されることに疑問を持つ方もおられますが、法律上ではむしろ自動車に近い「軽車両」扱いになります。
そのため、過失割合の判断でも、一時停止義務を怠った自転車運転者に対し、過失が加重されているのです
自転車の一時停止義務違反を原因とする交通事故は非常に多く発生しています。
その理由として、自転車運転者の方で一時停止義務があることを理解し、きちんと一時停止をしている方は多くないのが現実である一方で、自動車運転手は「交差道路側に一時停止義務があるから、交差道路から車両が出てくることはなく、減速せずに進行しても大丈夫だろう。」と軽信する傾向にあるからです。
特に児童や学生さんなどでは、自転車で交差点に突っ込んでくる方も見られます。
死亡や重傷を負わされた挙句、加重された過失割合が認められ損害額が大きく減額され、さらには加害者側の損害も賠償しなければいけないという意味で、交通事故被害者にとって最悪の事故態様(「悪魔の自転車一時停止無視」)ともいいうるものです。
自転車で交差点に進入する際には、左右の安全に十分に注意することと、自転車でも一時停止規制は必ず守る、この姿勢が事故に遭う確率を劇的に減少させることになります。
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