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近時、交通事故でいわゆるむち打ち損傷などの捻挫・打撲を負った方に対する相手方任意保険会社による治療費の打ち切りが早まっている印象がございます。
そのため、当事務所にご相談に来ていただいた方から、「まだ痛いから通院したいけど、打ち切りといわれた。」とのご相談が相次いでいます。

厳密にいえば、「まだ痛いから通院したい」というのは、交通事故賠償実務上通院が認められるために、言い換えれば、通院の必要性が認められる判断基準としては、必ずしも正しくありません。
正しくは、「治療による改善効果が認められるのでまだ通院の必要性がある」という点になりますので、以下詳しく説明します。


治癒と症状固定


交通事故賠償実務上、治癒もしくは症状固定まで治療費が認められます。
「治癒」というのは、文字どおり症状が治った時点のことを指します。
「症状固定」というのは、一般的な医療行為によってはこれ以上症状の改善が見込めない時点を指し、これ以降は後遺障害として扱われることになります。
治癒と症状固定のイメージは下の図のとおりです。

すなわち、「まだ痛い」というだけでは「症状固定」に至っていると判断される可能性もあり、治療の必要性が認められるためには、「症状固定」に至っていない、すなわち、ある程度長期的な視点で治療による症状の改善効果が認められることが必要になります。
なお、ある程度長期的な視点を必要とするのは、症状は日によって異なる場合が多いために、一時的に良くなったとか悪くなったという点を排除するためです。



「長期的な視点での治療による症状の改善効果」とは


それでは、「長期的な視点での治療による症状の改善効果」とはどのような状態をいうのでしょうか。
当事務所では、1か月前に比べ部位や程度が治療により改善していることを目安としています。

すなわち、例えば、部位の改善効果は、1か月前に比べ左手のしびれはだいぶ良くなったが、首から左肩にかけてはまだ痛むといった場合はまだ部位の改善効果がみられるといえます。

また、程度の改善効果は、一般的な医学上用いられているNRS(Numerical Rating Scale)という痛みの程度を10段階で示す指標により、1か月前の首の痛みは8だったが現在は7に改善したというように、症状の程度を数値で伝えることにより改善効果を示します。
ただ、NRSを使う場合、一般的には10が想像できる最大限の痛みを指しますので、「事故当初の痛みを10とした場合」として置き換えて伝える必要があります。


治療による改善効果は誰が判断するのか


治療による改善効果があるか否かは、医学的な判断になるので一義的には医師の先生が判断することになります。
ただ、痛みやしびれなどの神経症状は、骨折の癒合状況などとは違い客観的に判断できず、本人の自覚症状の訴えによることになるので、症状固定か治療の必要性がまだあるのかについては、被害者の方と医師の先生と相談して決めることになると考えます。

他方で治療の必要性が認められるかは、賠償上の問題ともなりえますので、争いが生じた場合は医師の先生方の意見を参考にしながら、受傷機転(事故態様)や診断名、通院頻度や治療期間、治療内容、この間の症状の訴えなどを総合して、最終的に裁判所の判断に委ねられます。


治療の必要性があるにもかかわらず、打ち切られてしまうのはなぜか


場合によっては、相手方任意保険会社は、主治医の先生がまだ治療が必要と判断しているにもかかわらず、平気で治療費の支払いを打ち切ってきます。
残念ながら、治療が終了したり後遺障害が認定されるなど賠償額が確定するまでの任意保険会社からの治療費等の支払いは、「内払い」といって任意のサービスに過ぎず法的根拠はありません。
そのため、そもそも事故当初から治療費を支払わないとか、治療途中で治療費を打ち切ったとしても何ら違法な行為ではないのです。


治療費を打ち切られたら


治療による症状の改善効果が認められ、主治医も治療の必要性を認めている場合、相手方保険会社に治療費の延長をお願いすることになります。
その際は、単に「まだ痛いから通院したい」と訴えるのではなく、上記の治療による長期的な「部位もしくは(および)程度」の改善効果を訴え、治療の延長を求めることが大切です。

それでも、打ち切られてしまった場合、治療期間が空いてしまうと再び治療を再開したとしても、その後の治療は因果関係を争われてしまうことになります。
ですので、打ち切りにあった場合、間を空かずに、健康保険や労災、ご自身側の人身傷害保険への切り替えにより治療を継続することが肝要です(健保利用についてはこちら、労災利用についてはこちら、人身傷害保険についてはこちらも併せてご覧ください)。

なお、打ち切り後自由診療での治療の継続については、毎回の治療費の自己負担額はかなり高額になりますし(自由診療1点20円の場合、健保利用の場合の概ね6.7倍)、万が一最終的に治療費が支払われなかった場合の場合の損失が大きくなる点で当事務所ではお勧めしていません。


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