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高次脳機能障害においては、自賠法上1~3、5、7、9級(12級や14級に留まる場合もあります)に該当することになり、その具体的な該当基準は以下のとおりですが、実際に残存した症状が、何級に該当するかを判断することは困難です。
そこで、ここでは、自賠責書式の診断書「神経系統の障害に関する医学的所見」の記載から、自賠責の何級に該当するかを簡単に判断する基準を以下ご紹介します。

自賠責保険と労災保険では認定等級自体は変わりませんが、労災保険では自賠責保険と異なり、3級から12級該当性の具体的判断基準は、以下の4つの能力の喪失の程度に応じて判断されますのでより明確です。
そこで、労災保険の基準を応用して、被害者の高次脳機能障害が自賠責の何級に該当するかの具体的基準を以下検討していきます。
まず、労災保険の認定基準をみていきます。


4能力


ア 意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
イ 問題解決能力(理解力、判断力等)
ウ 作業負荷に対する持続力・持久力
エ 社会行動能力(協調性等)


能力喪失の程度


A わずかに喪失(多少の困難はあるが概ね自力でできる)
B 多少喪失(困難であるが概ね自力でできる)
C 相当程度喪失(困難はあるが多少の援助があればできる)
D 半分程度喪失(困難はあるがかなりの援助があればできる)
E 大部分喪失(困難が著しく大きい)
F できない(全部喪失)


労災等級認定基準


3級3号

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの

  1. 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの(F×1以上)
  2. 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの(E×2以上)

5級1号の2


高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの

  1. 4能力のいずれか1つ以上の能力が大部分失われているもの(E×1以上)
  2. 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの(D×2以上)

7級3号


高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの

  1. 4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの(D×1以上)
  2. 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの(C×2以上)

9級7号の2


通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

  1. 高次脳機能障害のため、4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているもの(C×1以上)

12級12号


通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの

  1. 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの(B×1以上)

労災認定基準での能力喪失の具体例

このように、労災基準では等級該当基準が明確ですので、労災事案ではない交通事故事案の場合であっても、高次脳機能障害の症状固定時に、通常の自賠書式の他、4能力の喪失の程度についての記載項目がある労災書式「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」を併せ記載いただき、意見書中の4能力の喪失の程度を労災基準と照らし合わせれば、等級該当性は比較的容易に判断できます。
ただし、労災が労働能力を有する方の能力を問題にするのに対し、自賠責では、幼児や高齢者の方などすべての方を対象としますので、この観点からの等級認定基準の相違が生じています。
 そのため、労災の判断と自賠の判断が必ずしも一致するものではないことをご留意ください。

自賠用書式による等級該当性判断

それでは、労災書式を記載しておらず、自賠責書式のみしかない場合に、高次脳機能障害の等級該当性をどのように判断すべきかの基準をご紹介します。
 ただし、この基準は、あくまで当事務所独自の見解で、必ず基準どおりの認定がなされるわけではなく、等級判断の目安に過ぎないことに留意してください。

 用いる書式は、医師に記載してもらう「神経系統の障害に関する医学的所見」で、書式中の「6.認知・情緒・行動障害」欄の1から21の具体的項目を上記労災基準にあてはめて判断します。


上段の表は、能力の喪失の程度を示し、下段の1から21までの項目は、具体的な能力を示すものです。

 まず、能力の喪失の程度ですが、労災基準では能力の喪失の程度は、A「わずかに喪失」~F「できない」に分類されていますが、上記喪失の程度「2」はAもしくはBに、「3」はCもしくはDに、「4」はEないしFにそれぞれ対応すると考えられます。


能力の喪失の程度の対応


神経系統の障害に関する医学的所見       労災基準
         2         ⇒    A又はB
         3         ⇒    C又はD
         4         ⇒    E又はF

次に、具体的能力の労災4能力との対応は、以下のとおりとなると考えられます。


具体的能力の4要件との対応


神経系統の障害に関する医学的所見     労災基準
1、2、7、8           ⇒ ア 意思疎通能力
9、10              ⇒ イ 問題解決能力
3、4、5             ⇒ ウ 持続力・持久力
6、11~21 ⇒ エ 社会行動能力

それでは、具体的な事案を見ていきます。
「神経系統の障害に関する医学的所見 6.認知・情緒・行動障害」で下記のとおり診断された方はおおよそ何級に該当するか、上記判断基準にあてはめてみていきます。


能力の喪失の程度「3」が、5、7、12の項目に見られます。
 そうしますとこの方の能力は、労災基準に当てはめると、下記のとおりとなります。

具体的能力    労災4要件    喪失の程度
5  ⇒ ウ 持続力・持久力   C又はD
7  ⇒ ア 意思疎通能力    同上
13 ⇒ エ 社会行動能力    同上

上記喪失の程度は、労災基準では、D×2以上として5級、D×1もしくはC×2以上として7級の認定可能性がありますが、この方は、実際に自賠責保険では被害者請求により7級4号の認定を受けました。
 当事務所では、この判断に対し、異議申立てを行うか検討いたしましたが、C又はDに該当する能力喪失の程度「3」がそれぞれ1つずつしかないこと、その他の能力の大半が「2」に留まることから、5級2号の認定は難しいと判断し、異議申立てを行うことは差し控えました。

もちろん、実際にご依頼いただいた案件についての等級認定判断は、その他の診断書類や報告書類、医師の意見などから総合的に判断していますが、交通事故を専門とする弁護士にとっても、高次脳機能障害における自賠責保険の具体的等級の判断を行うことは大変難しいものですので、一つの目安として、ご紹介した基準を参考にしていただければ幸いです。

このように、自賠責での高次脳機能障害の等級判断においては、「神経系統の障害に関する医学的所見」中の「6.認知・情緒・行動障害」欄は、非常に重視されますので、患者様の現状が過小評価されていないか、しっかりとチェックする必要があるといえます。


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